高機動幻想ガンパレード・マーチ 報告書1

高機動幻想ガンパレード・マーチ 
written by 高橋良明・王立ゲーム研究部所属

 天才っていうジャンルに属する人は、結構たくさんいます。もしも貴方がまだ、天才を知らないと思っているのだとしたら、それは、気付いていない、勘違いしているだけかもしれません。実は天才はたくさんいるのです。
 
 それこそ、オリンピックのメダリスト、さらに上位選手はほとんどが努力を惜しまなかった天才でしょうし、将棋界で言えば羽生善治氏、藤井聡太氏……だけではなく、トップクラスで活躍するプロ棋士の方もほとんど天才でしょう。サッカーで特別輝きを放つメッシ氏は天才を磨き抜いた選手で、それ以外のプロリーグで活躍するトップ選手は尽く天才であるといっていいかと思うのです。
 
 一学年に一人くらいは存在するのが天才です。そういう種類の人間です。
 
 さて。そんな天才ですが、天才だからと言って恵まれている、幸せである、報われている……訳ではありません。栄光無き天才達という作品がありましたが、天才であるが故にマイナス面も多く、さらに、根本的に天才と理解されずに無駄に迫害されてしまう……なんていうケースも多々あります。
 何よりも、我々の暮らすこの現代社会では天才「でない」人の方が一般的です。さらに、天才を天才と気付けない、想像も出来ない人も多いのです。
 
 で。今回の天才は……何をしていても天才が溢れて来てしまう男、芝村裕吏氏です。
 
 ゲーム業界、ゲーム制作者にも天才は多数存在します。というか、総合芸術とも言えるゲームという商品分野では、非常に細かい作業分担が行われるため、商売と芸術、さらにエンターテイメント性の均衡を保てる、調整出来る能力の天才……なんていうのも存在します。
 つまり、多くの天才が積み重なって、被せあって生まれたゲーム、その中でも一部が神ゲームとなるのです。
 芝村氏が中心となって生み出した、為した仕事。その結果であるPlayStation用ゲームソフト『ガンパレード・マーチ』も、多分、多くの天才が絡み合って生み出された最高級の工業芸術製品、作品です。
 
 少なくとも、この作品に関わった制作者……アルファシステムの社長、佐々木哲哉氏、矢上総一郎氏他多くのスタッフ。さらにイラストレーターのきむらじゅんこ氏も……天才もしくは天才に近い才能の持ち主が、多数存在したことは間違い無いかと思います。
 
 ゲームの場合、至高と呼べる様な作品を生み出すには、一人の天才では手が足りないのです。と、制作スタッフを一人一人洗っていったら、キリがありません。ということで、特定しましょう。現状、小説家としても名を馳せている芝村氏を狙いをつける、です。
 
 えーと。肩書きは……ゲームデザイナー……となっています。まあ、ゲームデザイナーもいろいろあるとは思うんですけどね。芝村氏の御仕事は場合は、企画、設定、脚本(メッセージ)など、非常に多岐にわたります。基本的に、プログラム、グラフィック部分以外はほぼ全て、氏が絡んでいると言って間違いない気がする……そんな感じじゃないかと予測します。個人的なカンですが。氏に関する話を聞いている限り、そんな印象です。
 
 それは芝村氏が本作後に執筆された小説群からも伝わってきます。ああ、この天才は、ゲームデザイナーとしての才が先に立ちましたが、小説家としても才有りなのです。小説はほぼ一人で創作されるため、彼の伝えたい物語が、当然、直接伝わってきます。短編長編含めて、様々な世界を描かれています。戦争モノあり、バーチャルゲームモノあり、正統派SF系ありと、まあ、SF系小説家……と言って良いでしょう。多分。万能小説家だと訳わからなくなりますしね。
 で、大切なのは。どの作品からも伝わってくる……「夢と希望と未来をつかみ取ろうと足掻く姿は美しい」ということです。
 
 これは一貫して変わりません。彼の描く人々は、例えAIであっても、あがきもがき、のたうち回っても、幸せになろうと死力を尽くします。というか、尽くされます。自分の意志に関係なく、燃やせるだけ、自分の中の燃料を燃やし続けよ、燃やせなくてもやれ、と命じられ続けるのです。
 
 無名世界観、並行世界など、彼の生み出した「本作を中心に目立つ様になった汎用に構成された世界設定」に目を奪われがちですが、世界の設定が濃いからという理由だけで、彼の生み出す世界が支持されるはずがありません。正直、本質は人の意思の物語。そちら。設定はオマケ、お菓子のオマケ程度に思ったら、実は本物の車が付いて来ちゃったレベルなんですが。ええ。
 
 さて、そんな天才、芝村氏に「天才ですよね」と聞いたことがある人に聞いてみました。
 
編集「本人はね、「いやいや、自分は天才などという、大層なものではありませんよ。うーん。まあ、そうですねぇ。「可愛がられる」という意味では天才かもしれません。佐々木社長やSCEのプロデューサー、その他大勢の上の方々に甘やかされたからこそ、ここまで残ってきたというか」って言ってた」
高橋「甘やかされの天才?」
編集「そういうことらしい……けどねー。あのね。自分自身で甘やかされているという意識があるということは、もの凄く庇ってもらっていたということじゃない?」
高橋「ええ、そうなりますね」
編集「えーとね。天才っていうのは、そのすぐ側に通訳、又は翻訳者、解読者がいなければ成立しないものなんじゃないか? と思うのね」
高橋「通訳ですか」
編集「天才っていってもさ、ご飯を食べて、寝て、性欲があって。基礎部分は一般人と同じなわけですよ。である以上、ある程度社会に適応している場合がほとんどなのね。それこそ……天才が20%程度なら、一人でも社会に融け込んでやっていける。50%ならぎりぎり、ちょっともめるけどまあ、なんとかなる。で。明確に天才とわかる80%以上の人は通訳がね、必要でね」
高橋「天才にも濃さがあると」
編集「うん。で。芝村さんは周りに迷惑をかけていることを理解した上で、上の人に甘えることが出来ていた……ということは、確実に80%以上の天才なのかなと。で、さらに、対人関係系の天才能力もあるので、ギリギリ一人でやっていけていると」
高橋「まあ、それくらいの才能のある人なのは間違いないですよね」
編集「そうだね」
 
 さて。そんな天才が関わった本作『高機動幻想ガンパレード・マーチ』ですが。ぶっちゃけ、発売時のエピソードもかなり面白く、盛りだくさんです。これまた、もの凄く側で見ていた人に聞いてみましょう。
 
編集「えーと。まず。『ガンパレ』の情報初出は、確か、発売の前年年末……だったかな? つまり、1999年の年末くらい? 写真数点がファミ通さん優先でっていう当時のゲーム広報の定番仕様というか。で、ファミ通さんに初出で掲載された後は、ほとんど情報の露出がなかった。確か。俺記憶なのであやふやだけど。なので電撃プレイステーションでは多分、新作情報ページでコマだったハズ。まあ、時代的には既に、PS2が2000年の3月に発売されちゃってるからね。で、夏にPSで『ドラゴンクエストVII~エデンの戦士たち~』『ファイナルファンタジーIX 』が発売されて。なんとなーく、ゲーム業界的、開発会社的にはみんなの気持ちがPS2に向かってしまってた感じというか。そんな時期で」
高橋「結構、不安定な時期ってことですか?」
編集「そうだねぇ。業界はPS2に向かって一直線だったけど、ユーザーはまだ、面白いゲームはそんなに~っていう。それこそ、この時期にPS2を購入していた主な層は「凄まじくお安く買えるDVD映像ソフト再生機」として考えていたくらいだからね。エロDVDは画質が綺麗で良いなぁ~とか言ってた。というか、俺が言ってた。まあ、で。PSでゲームを作ってたソフトハウスなんかはは完全にPS2に夢中になってた。それこそ、2000年の夏に『真・三國無双』が発売されてさ。ポリゴンの質はまだまだ上があるけど、とにかく量が出せる! と理解された時期でね。凄く温度差があったというか」
高橋「まあ、そうでしょうねぇ。『FFⅨ』がゲーム雑誌で攻略記事が掲載出来ないとかでいろいろと大変だった思い出が」
編集「あったなー。同人誌で攻略本作ろうかとか言ってた。ライター陣でガンバって。笑。ってそんな話は置いといて。で。そんな夏。SCEの広報さんが二本の作品をプレゼン、提示してくれて。それが『ガンパレード・マーチ』と『ベアルファレス』。笑。この二本、同時発売ですから。2000年9月28日。いやー、すげーな。この投げやり感」
高橋「同時って……同じ会社の場合、普通発売日はズラしますよね?」
編集「何か事情があったのかもね。決算的なというか、いろいろ大人的な。で、広報さんからどちらか一本を選んでもらえないか? と。提案があって。それで何とか盛り上げてくれないか? 的な。そもそもね。電撃プレイステーションの特報っていうのは、完全初出じゃないとダメで。事前にファミ通さんに掲載されてしまっていた、この二本、どちらにしてもページを沢山確保して大プッシュするのはルール的にちょっと……っていうね。そういう状況で。で。SCEさん的にはプロモ費用がかけられないので、ダメ元でお任せします……的に言われて。こちらもね。お世話になっているわけですから当然、無碍にも出来ず。サンプルソフトをお借りして、数日お時間下さい的に、吟味したわけですよ」
高橋「まあ、そうなりますよね」
編集「で、プレイを開始しました。そしたらもうね、クオリティがね。違ったの。ゲームとして」
高橋「あれ? 『ベアルファレス』って名作だった気が」
編集「そう。『ベアルファレス』の方がね、超高クオリティ。画期的でもあり。ユーザーインターフェースとしては完璧な出来で。開発が関係があるのかは知らないけど『ランドストーカー』系の雰囲気というか、ゲームスタイルで。で、SCEさんに言われて、この二本を選んでいたのがザプレさんとうちなんだけど、ザプレさんっていうのは、ソフトバンクで、元々サタマガさんが強かったわけで、もう、絶対に『ベアル』を選んでくるなっていうのが見えてて。SCEさんも、電撃さんはこっちの方が好きでしょーきむらじゅんこさんのイラスト良いでしょー? 電撃さんはこっちでどうですかー的な推しも見えてて。俺予測。ああ、まあ確かに好きですよー最高ですねーきむらじゅんこさんーと、自らハマる気まんまん」
高橋「そんなにですか」
編集「いやーだってさ、何も知らない人に、この二本を最初の30分をプレイしてもらえば判るよ。初っぱなプレイしてみた感じ、第一印象で考えれば。ゲームとして、どんなにひいき目に見ても『ベアル』なんですよ。『ガンパレ』はMAP画面を歩くとオブジェクトのコリジョン設定がイマイチ見た目と合致していなくて、いらないところで引っかかったり、MAPとキャラの大きさが頻繁に切替で変更されるから自キャラがどこにいるか判りづらかったり、MAPの何処へ行けば別のMAPに繋がっているかも判らなかったり、時間経過が非常に大切なシステムなのに、学校の細かい時間設定が把握出来なかったり……。とにかく無駄が多い。んで。さらに。OPね」
高橋「あー今観るとかなりアレなポリゴンキャラですよね」
編集「メカや幻獣はいいのよ。アレでも。特にメカはかなりカッコイイし。でもさ。キャラね。前述の様に2000年夏のPSポリゴンキャラの比較対象は『ドラクエⅦ』と『FFⅨ』ですよ。さらに、前述の様にPS2では『真・三國無双』も発売されて「カッコイイポリゴンキャラ」も登場し始めていた。笑。うーん。どう優しく見ても、1998年レベルというか。そんなこんなで、掴みという意味では『ベアル』が完全に勝っていた」
高橋「でも、『ベアル』を選ばなかった?」
編集「うん。当時、その序盤をゲームプレイしてくれてた担当ライターは今考えても、凄く優秀な人でね。トータルで判断して『ガンパレ』は厳しいのではないか? という判断を下してきたのね。それは遊びやすさとかそういう点からね。でもそうなると、『ベアル』を獲り合わないといけない。それはイロイロな意味で面倒くさい。大人の事情的に、あまり喧嘩せずにいきたい~っていう思惑もあって。俺も自分で触ってみたのよ。ま~確かに、担当ライターの言う通り、なんていうか、操作性が悪い。視認性も悪い。ヒューマンインタフェースも改善されるべき所が多々見受けられる。あれ? でも……あれ? 俺のプレイしているゲームと、キミのプレイしているゲーム……違う展開になってない? っていうね。ここに来て、俺の『ガンパレ』が出現し始めた」
高橋「おお~」
編集「これはね、『ロマンシング サ・ガ』に始まったマルチシナリオ、マルチイベント系のタイトルの判りやすい傾向でね。もう、そのとっかかりでピンと来て」
高橋「ライターさんの反対を押し切って」
編集「いやいや、その判断をした頃には、そのライターさんも根本的にマルチな展開のゲームが好きで、自分のカマした行動に合わせて、様々な変化が見られるその魅力にハマリ始めていて。「一般的にはアレですけど個人的にはすごくグッときてます」と言われて。うし、こりゃ来たなと」
高橋「何が来たかは判りませんが、来ましたか」
編集「だってさ、確実にザプレさんは『ベアル』だろうからさ、って『ベアル』もね~惜しかったんだけどね~これはもう、向こうさんに任せるしか無いよなぁっていう。ただ、向こうは確実に、うちは貧乏くじ引いたって思ってたと思うんだよね。別に勝ち負けじゃ無いけど、勝った! っていうかさ。笑。案の定、何ももめること無く、うちが『ガンパレ』、向こうが『ベアル』ってことになり。もうね、俺の中ではこの時点でお祭り状態。コイツは来た、熱い、キタコレっていう。「超特報クラスの攻略ページを構築すべきタイトルを独占」したという祭ね」
高橋「なんとなくですけど……もの凄く個人的な感想というか、勢いですよね。
編集「そんなもんだって。多人数の意見なんて聞いていたら、決まるモノも決まらないし、進むモノも進まない。当然、じっくりと会議を積み重ねて進めるべき案件もあるけれど、この手のピーキーな作品はこちらもどれだけ熱くやれるか? が大事でさ。実際、俺や担当ライターの熱さ……というか、目が怖かったのか、シリアス度が伝わったのか、編集長がスゴイ反応をしてくれて。もう、良く判らないレベルでノリノリになり。まあ、そう考えると、芝村さんの言うアルファシステムの佐々木社長が凄かったというのと同じ様に、当時の電撃プレイステーション編集長が凄かったということだろうね。だって、ほぼゲームに触っていないのに(触れるタイミングが無かったし)、ページを割くことに積極的にOKしてくれたんだから」

報告書2に続きます
高機動幻想ガンパレード・マーチ 報告書2

高橋良明:ゲームライター。王立ゲーム研究部、原案原作担当。ゲームをこよなく愛する男。

この報告書は以下↓のマンガとリンクしています
王立ゲーム研究部 第2話

シェアする